ギュンター・グラスのイスラエル批判をめぐるテレビ番組のトーク・ショー(1)番組サイトから

「さらし者になったグラス」ーイスラエル批判はほんとうにタブーか?

 

 

ドイツにおけるユダヤ人中央評議会の元代表議長のミチェル・フリードマン氏は、作家ギュンター・グラスのことを、彼の詩「言わなければならないこと」で紋切り型の反ユダヤ主義的な言い回しをもてあそんでいると非難した。「このような言葉の爆弾を投げかけることの出来る人物は、批判もまた強烈なものになることを覚悟しなければなりません。」とフリードマン氏はZDFの番組「マイブリット・イルナー」で語った。

 

フリードマン氏によれば、グラスは「世界ユダヤ主義、ユダヤ人の権力、ユダヤ人の大量破壊兵器」といった紋切り型の言い回しをもてあそんでいる。このことでグラスは近東の状況をめぐる必要な論争に不満を表明している。グラスによると、この論争は一種のカモフラージュを必要としており、そこでは事実に反してイスラエルがすべての悪の根源としては提示されないことになっていると言うのだ。このようなグラスは「ほら吹き」であるとフリードマン氏は、グラスの詩の中でマハムド・アハマディネジャドに当てて用いられた言葉をほのめかして利用してみせた。この詩の中でグラスは、そのイラン政策と核兵器で世界平和を脅かしているとイスラエルを非難した。フリードマン氏にとってみれば、グラスが一時的に武装SSに加入していたことをおおやけにして以来、このような問題に対してグラスは道徳的に見て傷ものであるとフリードマン氏は断じた。

 

フランツィスカ・アウグシュタイン氏はフリードマン氏のそうした解釈に反対した。このジャーナリストは「あなたの言うような内容はこの詩の中に全然見つけられません」と主張した。彼女の見解によれば、グラスは核攻撃、戦争に対して警告を発しているのである。「彼はイスラエルのイランに対する攻撃に警告を発しているのであり、その意味で彼は正当です。」とアウグシュタイン氏は語り、さらに「このような攻撃は、たとえ通常兵器のみでおこなわれるにせよ、全世界にとって脅威です。」明日にでも通常兵器によって攻撃を差し向けるという脅しをイスラエルがおこなってからすでにかなりの日月が立っている。その際「イスラエルは安全」だ。なぜならイスラエルは「全員」によって守られているから。アメリカの軍事専門家さえ、イランはイスラエルを「片づけ」ようとはしないだろうと断言している。

アウグシュタイン氏によれば、ドイツはいかなる武器も緊張状態にある知識に輸出すべきではない。「あらゆる政治的問題を武装力によって解決できるという奇妙な考え」を欧米諸国は「何年も前から」持つようになっているが、それは間違っている。むしろ、わたしたちは戦争を望んではいないということを誰もがーイスラエルの側からもー発信することが必要なのだとジャーナリストは要求した。

 

イスラエルの元ドイツ大使アヴィ・プリモル氏の見解によれば、グラスは反ユダヤ主義者ではない。しかし、彼が外交官としてドイツに入国したときグラスが彼を歓迎しようとしなかったことを彼はよく覚えていると言う。「グラス氏にとってイスラエルとのつき合いは苦労が多いのです。」同時にアヴィ・プリモル氏は、イスラエルにもイランとの正しい交渉のあり方についての論争があるということを指摘した。その際重要なことは、「イスラエル人はほんとうに不安がっている」ということだ。「イスラエルを攻撃的な国と見なすこと」はドイツ人の最悪の偏見であると元大使は言った。反ユダヤ主義はこころして克服されなければならないと彼は要求した、しかし「それが存在しないとこでは、そういうわけではありません。」

 

フリードマン氏は放送の途中で、イスラエルの味方をすることはドイツの特別な責任のひとつをなしていることを アンゲラ・メルケル首相(CDU)が強調していることに注意を促した。とはいえアヴィ・プリモル氏は、ドイツの兵士がイスラエルのために戦うべきだということを話題にしたものは誰もないということを明確にした。

 

近東の専門家ペーター・ショルーラトゥール氏もまた直接の軍事的支援については警告した。「イスラエルに軍事的に加担すべきでないとドイツ人に忠告したいと思います。それはダメです。」とショルーラトゥール氏は語り、さらに、ドイツ軍の攻撃部隊が「イスラエルに向かって発砲しなければならない」という事態にも至らしめてはならないと付け加えた。

 

ショルーラトゥール氏によれば、グラスによって誘発された議論はまったくもって大げさに過ぎる」ものだ。それは「ヒステリー状態」に達していると近東専門家は批判し、「事態が先鋭化すればするほど、人々はそれだけいっそう核兵器の必要を感じるようになる。破壊のためでなくとも、脅しのために。」と警告した。最近彼はイランに滞在した。彼の意見によれば、イラン人は、核技術へのアプローチが許されないということで自分たちが「差別されている」とますます感じるようになっている。それにもかかわらず、現在、より大きな危険はイスラエルとその首相であるベンヤミン・ネタニヤフから生じているとショルーラトゥール氏は指摘する。

 

「イラン国民は核武装を望んではいません。それはまったく別次元の問題です。」とイラン系ドイツ人の映像作家兼作家のシバ・シャキブ氏は強調した。イランのほとんどの人々はギュンター・グラスが何を発言したかを知らないと言う。イランの指導部はグラスの詩を自分たちに都合よくゆがめて解釈している。イラン国民は、自分たちのまわりの国々が核兵器をもつならば、原則的に核兵器への権利を要求することはする、しかし実際問題としてそのことに関心をもっていないということをシカブ氏は明言した。イスラエル人の場合と同様、イラン人の不安もまったく具体的なものであると彼女は言う。そしてこの不安が攻撃を正当化するものならば、そのことは彼女の国イランにも当てはまるとこの作家は主張した。